- 葬儀
エンバーミングとは? 費用相場や故人を生前の姿に近づける流れを解説


/(株)くらしの友 儀典本部
2004年くらしの友入社、厚⽣労働省認定の技能審査制度「葬祭ディレクター」1級取得。
故人様とご遺族に寄り添い、大規模な社葬から家族葬まで、これまで1,000件以上の葬儀に携わる。
大切な方を送り出すにあたり、「できるだけ生前の姿に近づけたい」と考える方もいるでしょう。日本では、エンバーミングよりも湯灌(ゆかん)の方が一般的ですが、近年は長期間に渡り身体を保全できる「エンバーミング」も注目されつつあります。
本記事では、エンバーミングの基本や施術の流れ、費用相場などを解説しながら、故人を美しく見送るための方法をご紹介します。
この記事で分かること
- エンバーミングとは何か、エンゼルケアや湯灌との違い
- エンバーミングの目的や役割、どのような場面で必要とされるか
- エンバーミングの費用相場や施術の流れ

目次
1 エンバーミングとは?

エンバーミングとは、故人のご遺体を衛生的に保ち、腐敗を遅らせる処置のことで、遺体衛生保全とも呼ばれます。防腐剤を注入して血液と入れ替え、消毒や清掃を行って見た目を生前の姿に近い自然な状態に整えます。
エンバーミングを行うことで、ご遺体を長期間衛生的に維持でき、遺族は故人とゆっくりと時間を過ごすことができます。エンバーミングは日本ではまだ広く普及しているわけではありませんが、特に海外では一般的な技術として認知されています。
1-1 エンバーミングの役割は4つ
エンバーミングを行う方をエンバーマーと呼び、日本では約200人が活躍しています。エンバーマーの目的はご遺体を生前の姿に近い状態にするのみではありません。エンバーミングの役割は主に4つあります。
※参考:一般社団法人 日本遺体衛生保全協会.「エンバーミングとは」. https://www.embalming.jp/embalming/
(参照 2025-04-01).
※参照:厚生労働科学特別研究事業.「エンバーミングのプロトコル策定等の研究」.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/181031/201806009A_upload/201806009A0003.pdf
(参照 2025-04-01).
1-2 エンゼルケアとの違い
エンバーミングとよく比較される言葉にエンゼルケアがあります。エンゼルケアは亡くなった方の体を清潔にし、安らかな姿で送り出すための処置です。
具体的には体を拭いて清め、口や鼻に詰め物をして体液の漏れを防いだり、着替えや化粧を施したりして自然な表情を保つことを目的としています。またエンゼルケアは病院や自宅などでも実施が可能で、遺族が立ち会えるケースが多いのも特徴です。
一方、エンバーミングは専用の施設で行われ、見た目だけではなく防腐や殺菌消毒といった体内に及ぶ処置が含まれます。専門的な知識と技術が必要であり、資格を持つエンバーマーのみが施術を行えるのが大きな違いです。
またエンゼルケアは葬儀までの一時的な処置であるのに対し、エンバーミングを施したご遺体はより長期間にわたり保存できるという特徴の違いもあります。
1-3 湯灌(ゆかん)との違い
ご遺体をきれいにする処置として湯灌(ゆかん)もあります。エンバーミングが専門の施設で行われるのに対し、湯灌は遺族の立ち会いが可能です。かつては遺族自身が行っていた歴史もあります。
ご遺体をきれいにするという意味ではエンバーミングやエンゼルケアも同様ですが、湯灌は宗教的な意味合いを持つのが特徴です。「現世の穢れを洗い流す」という考えに基づき、故人の体を湯船やシャワーで清める儀式として行われます。
湯灌の意味や儀式の流れなど、詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
2 エンバーミングを行う目的や必要なシーン

エンバーミングはご遺体の状態を長期間、良好に保つ手段です。状況や必要に応じてさまざまに活用され、遺族にとっても多くのメリットをもたらします。どのように利用されているかを、目的別に説明していきます。
2-1 ご遺体の修復を行うとき
事故などで損傷を受けたご遺体や、病気の治療でむくんでしまったご遺体も、エンバーミングによって生前に近い姿に修復することが可能です。専門のエンバーマーが、高度な技術と丁寧な手作業で損傷箇所を目立たなくし、安らかな表情を再現します。
これにより遺族は、まるで眠っているかのようなお顔の故人と対面でき、心穏やかにお別れの時間を過ごせるのがメリットです。ご遺体の修復は、遺族の精神的なケアにもつながり、故人の尊厳を守る上で非常に重要な意味を持ちます。
2-2 感染を予防するとき
エンバーミングは、感染症の拡大を防ぐ上でも有効な手段です。というのも、ご遺体は時間の経過とともに腐敗が進み、体液や血液が漏れ出します。
腐敗はドライアイスを使用しても抑えられますが、病原体が原因で亡くなった場合、体内には菌やウイルスが残り続け、適切な処置を行わなければ感染のリスクが高まります。
エンバーミングはご遺体を消毒し、防腐処理を施すため、病原体の拡散を防ぐのに有効です。
エンバーミングは公衆衛生の観点からも、大切な役割を果たします。
2-3 火葬場の予約が取れないとき
厚生労働省「人口動態統計速報」によると、2024年の死亡者数は1,590,503人、2025年には1,618,684人に達すると推計されており、年々増加傾向にあります。
その影響で火葬場の予約が取りにくくなっており、NHK首都圏ナビによると一部の地域では火葬まで12日間待たなければならない状況が発生しているという事例も紹介しています。
このような場合、ご遺体の損傷を防ぐ手段としてエンバーミングが有効です。エンバーミングを行えば、遺体を衛生的に保全し最大50日間の長期保存が可能となります。火葬場の混雑時でも、適切な処理により安心しながら故人のお見送りができるでしょう。
※参考:厚生労働省.「人口動態統計速報(令和6年12月分)」. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2024/dl/202412.pdf
(参照 2025-04-01).
※参考:NHK首都圏ナビ.「火葬ができない 12日間待ちも “多死社会” 年間死亡者数が過去最多」.
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230626b.html
(参照 2025-04-01).
2-4 海外からご遺体を搬送するとき
海外へご遺体を搬送する際、飛行機での輸送ではドライアイスの使用が制限されているため防腐処置としてエンバーミングが必要不可欠です。エンバーミングによりご遺体の衛生状態を保ち、長時間の輸送にも耐えられるようになります。
特に日本国内で亡くなった方を海外へ搬送する場合は、国際的な衛生基準を満たす必要があります。エンバーミングによって輸送中の衛生管理が適切に保たれ、ご遺体を安全に目的地へ届けることが可能です。
一方、海外で亡くなった方を日本へ搬送する場合は特に厳しい規定はないものの、適切な処置を施せば、長時間の搬送や葬儀までの日数が長いときでも生前の姿を維持できます。
3 エンバーミングでご遺体を保全する流れ

ここではエンバーミングを行う際の具体的な流れを説明します。適切な手順を踏むことで遺族がお別れできる環境が整うので、ぜひ参考にしてください。
3-1 必要書類を提出する
エンバーミングを行うには、エンバーミング依頼書と死亡診断書の2つの書類をエンバーミングセンター、または依頼を代行する葬儀社へ提出します。
ただし依頼書には、故人の二等親以内の家族が署名すると決められているケースが多いので注意しましょう。依頼者の住所や電話番号など基本情報をはじめ、ご遺体の状態や髪型、衣装、化粧の希望を記入する欄も設けられています。可能な限り要望を詳細に伝えてください。
また故人の生前の写真を用意することで、エンバーマーが生前の姿を再現しやすくなります。
3-2 ご遺体を施設に搬送する
エンバーミングは、全国各地にあるエンバーミングセンターで実施されます。これらの施設は専門的な設備を備え、ご遺体を衛生的に保つ環境が整えられています。
ご遺体は安置場所から専用車両でセンターへ搬送されますが、通常は葬儀社を通じて手配されるのが一般的です。
搬送後、ご遺体は適切な環境で処置が行われるまで安置され、清潔な状態が保たれます。
※参考:一般社団法人日本遺体衛生保全協会.「組織案内」.
https://www.embalming.jp/organization/
(参照 2025-03-31).
3-3 ご遺体の洗浄と衛生保全
ご遺体の処置が行われる際は、まず全身を洗浄・消毒し、衛生状態を整えます。このとき、ひげの手入れや開いたままの目や口を閉じる処置なども行われる他、洗顔や洗髪を施し、保湿剤を塗布して表情を穏やかに整えます。
さらに希望に応じて顔の産毛を剃ることも可能です。遺族が安心して故人と対面できるよう配慮してくれます。
3-4 エンバーマーによる腐敗保全処理
エンバーミングの核心となるのが腐敗保全処理です。この処理では、まずご遺体に1〜15cm程度の切開を施し、血液や体液を排出して内部を清潔にします。その後、動脈から保全液(防腐剤)を注入し、体内に残った不要な物質を吸引・除去した後、静脈からも保全液を注入します。
この作業によりご遺体の腐敗を遅らせ、長期間にわたって衛生的な状態を維持することが可能です。またけがや切開した部分の損傷が目立たないように、適切な修復処理が施されます。必要に応じて、専用のテープや特殊な化粧技術を用いて、傷痕を目立たなくする工夫が行われます。
3-5 着替えと死化粧を施す
エンバーミングが完了した後、故人は生前好んだ服装や正装に着替え、丁寧に死化粧と整髪を施されます。これは遺族が故人と穏やかな最後のお別れができるようにするためです。
その後、ご遺体は自宅または葬儀式場などの安置場所へと搬送されます。すぐに納棺する場合もあれば、故人との最後の時間をゆっくりと過ごせるように施設から自宅などへ搬送し、時間をかけて納棺するケースもあります。
ご遺体の安置について疑問がある、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
4 エンバーミングの費用相場
エンバーミングの費用相場は、一般的に15万〜25万円程度です。IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)が基準を定めているため、葬儀社間で大きな金額差は見られません。
ただし施設への搬送費用やドライアイス代などは、オプション料金となる場合があるので事前に葬儀社へ確認しておきましょう。
またエンバーミングは、ご遺体の状態や遺族の希望によって費用が変動する可能性があるため、見積もりを依頼することをおすすめします。
5 まとめ:故人を丁寧に見送りたい方はぜひご相談ください
