- 想いをかたちに
第9回「“結婚式”を最後の贈り物に」編
2020年9月 東戸塚総合斎場 館長 M.S.
「あの…1つご相談があるんです」。あるご葬儀の打ち合わせの際、喪主様が意を決したように口を開かれました。「葬儀と併せて、”結婚式”のようなことはできないでしょうか。実は、もう妻のためのウエディングドレスも用意しているんです…。せめてドレスを柩(ひつぎ)に入れてやるくらいはしたくって」。
喪主様と故人様は半世紀近く連れ添われたご夫婦でした。若くして東京に出て就職された喪主様は、ご結婚を機に独立して会社を立ち上げ、奥様と二人三脚で仕事に邁進(まいしん)されてきました。
「『会社が軌道に乗ったら式を挙げよう』と2人で頑張ってきましたが、慌ただしい日々が続き、結局挙げないままここまで来てしまって」。お2人の歩んでこられた道のりを伺いながら、故人様への愛情と感謝の気持ちに心を動かされ、お2人にとって少しでも素敵な時間にしたいとの想いが強まりました。
ご葬儀は仏式。その後、”結婚式”のために時間を設けるのが一番だろうと考え、人前式のようなかたちを取ることを提案しました。私はその裏で、喪主様に内緒で、生花担当に”結婚指輪”の製作を依頼したのです。
温かな拍手に包まれて
そして迎えた当日。お寺様が退場された後、私は「では、ここからは”結婚式”に変わります」とアナウンスし、一輪の花で作った”結婚指輪”を喪主様にお渡ししました。喪主様は驚きつつも、少し照れながら受け取ってくださいました。
続いて喪主様が、結婚式をここで行うことになった経緯と奥様への感謝の言葉などをお話しされた後、静かに奥様の元に歩まれました。そして、ウエディングドレスを奥様に添え、手を取って結婚指輪を着けられました。その瞬間、会場から大きな拍手が湧き上がりました。おめでとうの声に混じって、すすり泣きされている方もいらっしゃいました。
参列された方々からまで「素敵な式をありがとう」とのお言葉を、こんなにいただいたお式は初めてでした。後日、喪主様がお越しになり、「おかげさまで心残りなくお別れができました」と晴れやかな顔でおっしゃってくださり、いいお手伝いができてよかったと感じました。
※肩書きは当時のものです。
※てふてふの「想いをかたちに」から一部を抜粋、再編集したものです。


