- 想いをかたちに
第4回「お父さんの作業着」編
2019年6月 立川センター 主任 K.S.
ご葬儀のお打ち合わせは、斎場で行う場合と、喪主様や故人様のご自宅などにお伺いして行う場合とがあります。後者の場合、 ふと目にした品から、生前の故人様のお仕事やご趣味が伝わることも少なくありません。
以前、伺ったお宅でふと目に入ったのが、ハンガーで壁に吊るされた1着の作業着でした。
その作業着にはところどころシミがあり、長年着続けたと思われる、年季の入った雰囲気を醸し出していました。胸に刺繍された会社名には、喪主様の姓が入っていました。
「あちらは、故人様の作業着ですか?」とお尋ねすると、喪主である奥様は優しく微笑みながら、故人様が若い頃に上京し、苦労を重ねてご自身の会社を立ち上げ、ずっとお仕事一筋で頑張ってこられたことを話してくださいました。
故人様がご家族のために心血を注ぎ、ご自身の誇りにしていたものーその象徴こそが、この作業着なのかもしれないと感じました。そこで、私は奥様やお子様にこんな提案をしてみました。
「納棺の儀式での旅支度で、経帷子(きょうかたびら)ではなく、作業着をお召しいただくこともできますよ」
それを聞くと、ご遺族は明るい表情で、「ぜひ、作業着で送りたい」とおっしゃってくださったのです。
在りし日の故人様らしく
納棺の儀の旅支度を経て、棺の中に眠る作業着姿の故人様は どこか誇らしげなご様子にも見え、ご遺族は目を細めてご覧になっていらっしゃいました。
最後のお別れにいらした故人様の知人・友人の方々も、普段よく見慣れた作業着姿の故人様に、在りし日をしのばれながら、お別れの言葉を掛けていらっしゃいました。
私自身は、ご遺族から改めて感謝のお言葉を掛けていただいたとき、少しでもお役に立ててよかった、と安堵しました。
ご自宅で作業着が目に入ったことから、たまたま「故人様らしいご葬儀」のお手伝いができました。故人様にもご遺族様にも寄り添い、ご満足いただける “かたち”にできた、忘れられないご葬儀となりました。
※肩書きは当時のものです。
※てふてふの「想いをかたちに」から一部を抜粋、再編集したものです。


