つたえたい、
心の手紙
いまは会えないあの人に
「つたえたい、心の手紙」

この活動を通して
「つたえたい、心の手紙」は、書くことで心の整理をする機会となる一方、読者の方からも、今ある大切な人たちと過ごす時間に改めて喜びを感じることができるという声が寄せられています。
この活動を通じて、手紙がもっている、“手紙を書いた本人だけではなく読んだ方への癒す力”“家族や友人との絆を再確認し、前向きに生きる気持ちにさせてくれる力”を皆様に少しでもお伝えできればと思います。

編集長が選ぶ、
今週の珠玉の1通
惜しくも受賞は逃したものの、作者の方の想いが強く感じられる作品を「珠玉の1通」としてご紹介いたします。
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つなぐ、五十音図
「力哉まで帰ってきたよ。こりゃもうダメなんやね」
酸素マスクを付けた母は、笑いながらそう言った。
「アホか。高校時代の友達と花見するために帰省したんや。母さんの見舞いが目的じゃなか」
私は咄嗟に嘘をついた。三月下旬の長崎は、桜の開花には少しだけ早かった。
間質性肺炎。たかが肺炎が、五十六歳の母の命まで奪うなど想像もしていなかった。私が長崎に帰省してからというもの、母は日に日に弱っていった。酸素マスクから常に高濃度の酸素を送り込んでも、肺がそれを身体に取り込んでくれないのだ。
呼吸をするだけで精一杯になってしまった母のために、私はスケッチブックに五十音図を描いた。これを指し示すことで、声を出さなくても意思の疎通ができるようになった。
――お・み・ず
私は「吸い飲み」と呼ばれる道具を使って、母に水を飲ませてあげた。
――と・い・れ
私は看護師さんを呼び、おむつの交換をお願いした。
――り・つ・ふ
酸素マスクから噴きつける風ですっかり乾燥してしまった母の唇に、リップクリームを塗ってあげた。言葉は交わせなくても、しっかりと気持ちは通じ合っていた。
そんな日々を二週間ほど過ごした頃。主治医に呼び出された私は、『そろそろ心の準備をしておいてください』と、神妙な顔で言われた。それを聞いた私は、崩れ落ちそうになる足を必死に奮い立たせ、母の待つ病室へと戻った。
私はベッドの傍らに立ち、ひきつりそうになる頬の筋肉を無理矢理上げて母の顔を覗きこんだ。すると母は、私の顔を見るなり、おぼつかない動きで五十音図を指差し始めた。
――あ・と・は・た・の・む
「『あと』ってなんね!何も頼まれんよ!」
私はこぼれ落ちそうになる涙をまばたきでごまかして、無理矢理笑って見せた。
四月十五日。満開の桜の中、母は静かに目を閉じた。
母さん、お疲れ様。あとは任せてください。
「心の手紙」に
寄せられたご感想
応募者の方の声
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静岡県・50代・⼥性
応募をきっかけに、改めて⽗や⺟への想いを⾔葉にすることができました。
忙しさにかまけて、⾒ないふりをしてきたような気がします。こんな⾵に感じていたんだ、と⾃分の事ながら、読み返すことができたことが、今、⾃分への⽀えです。
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東京都・10代・⼥性
初めてこの公募を⾒かけて、「祖⽗に伝えたい」その気持ちでいっぱいになり書きました。書いている途中はあれこれ祖⽗との思い出がよみがえって、何度も涙が⽌まらなくなり書くのを中断しましたが、最後まで書き上げられてよかったです。祖⽗に届くように⼼から願っています。
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⼤阪府・60代・⼥性
今まで⼼残りで後悔していたことを⽂章にして、⾃分の⼼の整理をすることができました。
本⼈にはもう伝えることができませんが、今まで内に溜めていた気持ちを吐き出すことで、⼼が少し軽くなった気がします。 -
神奈川県・60代・男性
この作⽂を書くことで、家族を考える良い機会になりました。私のように感じられる⽅は多いと思います。とても良い企画と思いますので、これからもずっと続けていっていただきたいと願います。
読者の方の声
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富⼭県・60代・男性
⾝に染みるお話ばかりで涙が溢れてきました。⾃分の⾝の回りにいる⼈やお世話になった⽅を⼤事にし、⼈の痛みや悲しみを知り、思いを同じにすることでその⼈の気持ちをより深く理解することができるのだと思いました。
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愛媛県・40代・⼥性
過去の作品を読ませていただきました。それぞれの⽅の⼈⽣や⽣き⽅、思いが伝わり、⼼が温かくなりました。⾃分の⽣き⽅や⼈⽣を振り返り、今に感謝する良い機会になりました。
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埼⽟県・70代・⼥性
毎年楽しみにしておりますそして何度も繰り返し読ませていただいています。
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岡⼭県・40代・男性
毎回、読むたびに普通の⽣活が当たり前ではなく、有り難い事なんだと思います。
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